工藤甲人展、終了迫る

夢と覚醒 (C)青森県立美術館

青森県立美術館では「工藤甲人展 〜夢と覚醒のはざまに〜」が絶賛開催中である。会期は5月6日までと残りわずか。
風は強いながらも春の陽気に誘われて、遅ればせながら出かけてきました。工藤甲人氏は1915年生まれの91歳! 今なお精力的な制作活動を続ける日本画界の第一人者である。「1950年から2006年現在に至るまで、56年間の工藤甲人の仕事のほぼ全貌を紹介」という宣伝文句どおり、80点近い作品を一堂に配して工藤氏の作風の変遷を見ることができる。
工藤氏の作品の特徴を一言で言うならば「幻想的」。深い青から淡い緑をグラデーションにしたり、深い青から明るい赤をぼんやりと浮かべるなど様々な手法を駆使して、詩的世界とも表現できる独特の幻想世界を展開する。
今回のテーマ名を冠する作品「夢と覚醒」(1971年)はグッと引き込まれる作品だ。濃い青を配した木の中からこちらをじっと見つめる人の姿。遠くには山に囲まれた湖があり裸の女性が静かに横たわる。手前が覚醒(現実)、奥が夢ということだろうか。蝶が2頭湖の手前を飛んでいるが、夢と現実をつなぐ架け橋のようだ。
入口入ってすぐに飾られている「黒猫」(1953年)も印象的(参考)。真っ黒い体の猫が画面いっぱいに描かれている。ギョロリとした目も猫らしい。真っ直ぐな後ろ足と尻尾と対照的に、動き出さんとする前足が、静寂を破る動きを見せる。単純そうな構図の中に、複雑な計算が見て取れる素晴らしい絵だ。
「幻想的」と評される工藤氏であるが、次のような言葉を残している。「私自身、特に幻想画家だとは思っていない。ただ心の中の美しい自然を、なるべく素直に、忠実に表現しているつもりであるが、ただそういう自然が現実にはない。というのは、現実の自然は、人為的に破壊され汚される一方で、もはやこの世に人の知らない自然というものは現実には存在しないわけだから、本当に無垢な自然を表現するとなると、どうしても超自然的とならざるを得ない。これからもそうした心の自然を一層美しく描きていきたいと思っている。」
失われた自然、無垢の自然、心の自然。青森に生を受けた画家らしい言葉ではないか。心の自然を素直に表現することで、生きとし生けるもの、女性的なものに画面が支配されていく。自然が多く残る青森にふさわしい美の表現である。未見の方は、工藤氏の幻想世界を是非堪能してみて下さい。