旅順博物館展

旅順博物館展

青森県立美術館「旅順博物館展」が8月26日まで開催されている。旅順は遼東半島の先にある軍事都市で、旅順博物館は現在も外国人には公開されていない。滅多に見られない所蔵品から、一級文物(中国の国宝)15点を含む100点を選び展示されている。かつてのシルクロード・ブーム*1を知る人々には興味深い展示であるだろう。詳細なレビューは「旅順博物館展 西域仏教文化の精華」─大谷探検隊を知ろう - カクレマショウがオススメ。
個人的に興味深かった展示物を紹介したい。パンフレットにも使われている「泥塑彩色侍女俑頭部(でいそ・さいしき・じじょよう・とうぶ)」はスッとした美人顔。額の十字型の模様、こめかみの三日月型の線、口の横にあるえくぼのような付け黒子(ぼくろ)は当時の流行の化粧という。写真では大きく見えるが、実物の顔の部分はわずか数センチの大きさである。
「木彫葡萄文門楣(もくちょう・ぶどうもん・もんび)」はロブ砂漠で見つかった建築部材。葡萄の実と葉と蔓(つる)をデザイン化した見事な装飾で、門の上を飾っていたものである。中央アジアのかつての繁栄を物語る。

数々の菩薩画も興味深く、「延寿命菩薩画像」の筆運びや大らかさは、まるで棟方志功の版画を見るようであった。
この展覧会は問題点も多い。まず、入場料が異常に高い。一般当日は1,700円もするので、とても人を誘える金額ではない。さらに言えば、PRが下手過ぎである。今年2007年は「新シルクロード 激動の大地を行く」シリーズが放送されている。NHKの協力を得ながら、シルクロードや西域仏教文化に関心を持つ人を発掘できなかったか。
ある日曜日に出かけたが、日曜日というのに予想通り人はまばらであった。(あえて意地悪な言い方をすれば)今回の展覧会は大いにコケてもらって、今後の展覧計画の反省材料にしてもらいたい。
ちなみに、常設展の展示が少し変わっていて興味深かった。特に印象的だったのが沢田教一の写真。前回訪問時よりもはるかに多数の写真を展示し、ベトナム戦争の悲惨さを我々に訴える。沢田自身による英語のキャプション(解説)が書かれたネガ袋が、整然と並べられ額に入れられている。こうなると単なる記録ではなく、これも一つの現代美術である。

*1:1980年のNHK特集「シルクロード」は、日本に絶大なシルクロード・ブームを巻き起こした。心地よい喜多郎のテーマ音楽(MIDI)に、淡々とした石坂浩二のナレーション。東西冷戦が特に緊張した時期、中国は遠い国であったことからシルクロードに対するロマンは俄然人々の心を掴んだ。天秤棒を担ぐ人、牛車を引く農民・・・画面の向こうに広がる光景に、懐かしさを感じる人も多かった。四半世紀経った2005年には「新シルクロード」シリーズ、そして今年2007年は「新シルクロード 激動の大地を行く」シリーズが放送されている。