木村秋則さんの自然農法栽培りんごの冷製スープ

すべての青森県民に知ってもらいたい料理と文献を紹介したいと思います。
「青森」を表現する料理の中から、青森グルメ至高の一品を選ぶなら、迷わずこの一品を選びます。
「レストラン山崎」青森県弘前市)の「木村秋則さんの自然農法栽培りんごの冷製スープ」

こちらのスープを初めて頂いた時の感動は、当ブログ記事(2007/04/05)に次のように記されています。

ほのかな桃色をしたスープをそっと口に運ぶと、りんごの甘酸っぱさと甘さが口いっぱいに広がります。何口か口に運んでいると、りんごの爽やかさが鼻を突き抜け、津軽の春の青空に咲くりんごの花、秋の空に実る紅いりんごが頭の中を巡ります。広大な津軽平野が持つ土のパワーを吸い上げたりんご。様々な手間を経て私の口にやってきたのだという素朴な感動があります。

今読み返してみても、当時の感動が蘇ります。りんごの甘酸っぱさと甘さを超え、爽やかな風味が鼻を突き抜けて、りんごの四季が頭を駆け巡る・・・。津軽平野の土のパワーを吸い上げて、幾多の工程を経て私の口にやってくる・・・。このスープには、「青森」を舞台にした壮大な叙事詩が織り込まれています。
材料は、木村さんがつくったりんごとりんご果汁、生クリーム、シナモン、カルバドス。このシンプルな材料から、なぜかくも壮大な叙事詩を紡ぎ出せるのでしょうか。まるごと青森さん(2007/01/12)の記事で、美味しさの秘密を尋ねられた山崎シェフは「木村さんのりんごが美味しいから」と答えていらっしゃいます。山崎シェフの卓越した技術もさることながら、「木村さんのりんご」の美味しさにやはり秘密があるようです。
 
木村秋則さんの自然農法栽培りんご」。これはどんなりんごなのでしょうか。この誕生には、努力を超えた努力、苦闘を超えた苦闘、絶望を超えた絶望がありました。木村秋則さんの仕事は、2006年12月7日放送の「NHK プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介され、絶大な反響を生みました。
番組では十分紹介できなかったエピソードも交えて、再構成されたのがこの本。石川拓治氏のしっかりとした文章によって、木村秋則さんの苦闘が見事に記述されています。

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

りんごは病害虫に大変弱い植物で、農薬をゼロにしてしまうと花は全く咲かず、実も付けなくなってしまいます。りんごの栽培の歴史は、農薬を使って幾多の病害虫と戦う歴史でもありました。農薬を使ってりんごを栽培することは、常識以前の問題。農薬も使わず肥料も使わず、りんごを育てるとはどういうことなのでしょうか。
この本は、木村秋則さんの努力や苦闘を記述した本を超えて、まるで「生命のつながり」を考える哲学書のようです。
医学だけでなく農学も園芸も、いやほとんどすべての学問が、デカルトの「方法序説」にあるように「難問を多数の小部分に分割すること」で問題を分析しています。西洋医学は、病気の原因を突き止めてピンポイントで抗生物質で対処します。東洋医学が、病気になる体質は何か、全体を全体のまま漢方薬で徐々に対処することと比べると、思想も方法も全く異なります。
りんごの一般的な栽培法も西洋医学のように、問題となる病害虫一つ一つに対処して農薬を処方します。木村さんの栽培法は、農薬を放棄することで、りんごが本来持つ生命力を引き出すという、従来の方法を根本から覆すものでした。これを達成するまでの苦闘は、家族までも巻き込む壮絶なもので、筆舌に尽くしがたいものがあります。何年も結果が出ないことに、失望の限り失望したことでしょう。
苦闘の中で木村さんは自然の摂理に通じる発見をします。
自然の中に、孤立して生きている命はない。すべての命が、他の命と関わり合い、支えあって生きている。
「自分がリンゴを作っていると思い込んでいたの。自分がリンゴの木を管理しているんだとな。私に出来ることは、リンゴの木の手伝いでしかないんだよ。失敗に失敗を積み重ねて、ようやくそのことがわかった。それがわかるまで、ほんとうに長い時間がかかったな」
本書の随所に散りばめられた木村さんの言葉は、滋味に満ちた真(まこと)の言葉。絶望感に満ちた現代人に贈ります。
 
<参考> 本書を読む時の一助になるサイト
リンゴ病害データベース モニリア病、褐斑病
青森の果樹Information−りんご データで見るりんご、りんごの歴史