青森県立美術館×十和田市現代美術館 ラブラブショー


青森県立美術館十和田市現代美術館がタイアップする形で展覧会「青森県立美術館×十和田市現代美術館 ラブラブショー」が開催されている。会期は2010年2月14日 (日)まで。
結論から述べると、青森県立美術館で今まで見てきた企画展の中で最も面白かった。2つの美術館が同じテーマでタイアップするという企画も斬新である。
「ラブラブショー」という展覧会の名前、『そっと、美術館で「恋」をしてみませんか。』というキャッチフレーズから、「恋愛」がテーマの展覧会に思われるかもしれないが、「出会い」がテーマの展覧会である。名前の親しみやすさとは裏腹に、なかなか深い展覧会であったと感じている。

ホームページで紹介されている言葉を借りると、2名の作家の「コラボレーション」による、展示空間そのものをキャンバスに見立てた「インスタレーション*1で構成される美術展。「コラボレーション」と言っても、厳密な意味での「共同制作」は少なく、「取り合わせ」の面白さを純粋に楽しむことになる。
本来文脈が異なるはずの作品が同じ空間を共有した時に何が起こるのか。そこに観客が加わった時に何が起こるのか。
青森県立美術館からは展示順に見て最初の3作品を紹介したい。

鈴木理策 (写真家)× 遠山裕崇(美術家)



最初に現れるのは「絵画のような写真」と「写真のような絵画」。描かれる桜の花とリンゴの花から、多くの青森県民は「弘前城」と「リンゴ畑」を連想するだろう。青森県民に身近な花をモチーフにした両作品を比較しつつ、「絵画と写真のあいだ」には何があるのか考えるのは楽しい。(左写真:鈴木理策「SAKURA」2007年、右写真:遠山裕崇「無題」2008年)

種村季弘 (作家) × 山吉由利子 (人形作家) × 桑原弘明 (美術家)

次は一転して「倒錯した世界」に誘(いざな)われる。

桑原弘明の作品は覗き穴から美しい風景を覗く作品。「覗く」という行為には、性犯罪にもつながるような倒錯性も存在する。美しい風景の鑑賞と倒錯性を持つ鑑賞法の組み合わせは面白い。(左写真:桑原弘明「窓辺の午後」1996年 (撮影:桑原弘明) )

山吉由利子球体関節人形は、少女の持つ可愛らしさとゆがんだ表情の醜さを併せ持っている。ロリータ的なエロティシズムを漂わせる倒錯した世界が広がる。(右写真:山吉由利子「少女」2001年 (撮影:豊浦正明) )
種村季弘の「マニエリスムの倒錯」は桑原と山吉の作品に共通する「倒錯」を束ねるような名文となっている。マニエリスムとはルネサンス後期の美術に見られた傾向を指す言葉。

岡崎京子 (漫画家) × 伊藤隆介 (映像作家)

1980〜90年代、現代女性の日常、恋愛そしてセックスを颯爽としたラインで鮮やかに描いた岡崎京子。いくつかの作品からのカットが展示されている。

ヘルタースケルター (Feelコミックス)

ヘルタースケルター (Feelコミックス)



一方の面に集合住宅の窓、もう一方の面にスイカ畑をジオラマ(縮小模型)で表現し、それをカメラで撮影したものを大きなスクリーンで映し出す伊藤隆介の作品。岡崎の作品に感じられる都会的でナチュラルな雰囲気と融合した興味深い作品となっている。 
この後も続々と展示は続いているが、少し展示順路が分かりにくいので注意されたい。それぞれの展示空間に性格の異なる世界が展開されるため、観客はいろいろ目移りして楽しいと思う。「ラブラブショー」の名にふさわしく、デートで来るには面白い展覧会となっている。
 
続いて、十和田市現代美術館で展示されている作品を紹介したい。

ロビン西 (漫画家) × KIMURA (立体造形作家)


この両者によるコラボレーションは、まさに「共同制作」。KIMURAが作る、いかにもダメそうな機械犬「ロボット犬」の飼い方をロビン西が指南する漫画は抱腹絶倒だ。KIMURAとロビン西のコラボ作品「チビ四駆」は赤塚不二夫の漫画に出てきそうな「バカ機械(バカペット)」。1960〜70年代、赤塚を始めとする漫画家は「バカ」をハッキリ表現していたのに、いつの間に大人しい表現に納まってしまったのだろう。バカなもの、無駄なもの、大いに結構である。

吉田初三郎 (鳥瞰図絵師) × 秋山さやか (美術家)

吉田と秋山の作品に共通するテーマは「地図と移動」。

吉田初三郎は大正から昭和にかけて鳥瞰図で人気を博した絵師。コンピューターグラフィックス(CG)の進歩などにより鳥瞰図という技法そのものがすでに失われていることに気付いた。鳥瞰図の持つ極端なデフォルメはCGでは得られない「温かさ」がある。

秋山さやかは、実際に十和田市内に37日間滞在し、体験した印象や記憶などを地図上に視覚化した作品を出品している。十和田市内を歩いて、その土地で得られた布、リボン、ボタン、シールなどの材料を、印象や記憶に基づいて地図に縫い込んでいく。新たな土地との「出会い」を「縫う」という女性的な行為で表現する面白さが新発見であった。
 
「出会い」は最も単純でありながら、最も不可解なものでもある。「出会い」は偶然なのか必然なのか。単なる確率的事象なのか、予定論(決定論)的事象なのか。「運命」とか「ご縁」という言葉で片付けつつ、その背後にある哲学的な世界に改めて気付かされるのである。我々は何者なのだろう、と。
「ラブラブショー」というポップなタイトルとは裏腹に、深遠なテーマに迫る深い展覧会であったと思う。
 
<画像出典>
青森県立美術館×十和田市現代美術館 ラブラブショー | 青森県立美術館
http://marugoto.exblog.jp/10558515/

*1:インスタレーション」とは、展示空間そのものまで表現対象とした表現法を指している。