八戸・湊のつぼ焼きいも

八戸市湊地区にある「つぼ焼きいも」の専門店「三戸商店」を訪問することができました。日本広しと言えど、つぼで焼きいもを作るお店は恐らく一桁。貴重な貴重な焼きいもです。


店主のおばあさんが「つぼ焼きいも」を始めたのは、何と61年前の1949年(昭和24年)。誰しも寸暇を惜しんで働いた戦後の混乱期、本業の水産加工業が閑散期に当たる冬の時期を利用できるというのが、「つぼ焼きいも」を始めたきっかけだそうです。
貧しい戦後のこと、寒い冬の時期にポカポカと温かいつぼを店先に置いているので、子供たちが暖を取りに来たといいます。当時はお金がなくて焼いもが買えなかった子供たちも、大人になってから、「手を温めさせてくれて、ありがとう」という言葉とともに買いに来てくれた、と懐かしそうに話してくれました。


店先にはピンク色のつぼが2つ並びます。どこで作られたつぼかも分からない謎のつぼ。つぼが割れたら「つぼ焼きいも」も消滅です。店内から見て右側のつぼがメインで、左側はサブなのだそうです。右側のつぼに置かれたアルミのジャーに、完成した「つぼ焼きいも」を保管します。
「つぼ焼きいも」を作るつぼの中を見せてもらうと、内部には針金が通してあります。釣り針状の針金を刺したイモを引っ掛けて、下に置かれた炭の熱でじっくりと火を通します。イモをつるす時間は40〜50分。イモの向きを変える作業を通じて、長年の勘で絶妙な焼き加減を実現します。
つぼの中では、炭火の遠赤外線が直接当たる効果とサツマイモが持つ水分が蒸気となって蒸し上げる効果のダブルパワーで、サツマイモの甘みをググッと最大限に引き上げているのでしょう。インド料理のタンドールを思わせる仕掛けだと思いました。


使用しているサツマイモは、イモの出来具合を見て判断されているそうで、今年は茨城県産の「紅こがね」。イモが入った重たい箱は孫が運んでくれるの、と目を細めていました。
読書好きなおばあさんなので、お客さんを待つ時間は文庫本を読んで過ごします。裸電球2つがぶら下がるだけの店内には、大きなつぼが2つと文庫本でいっぱいの本棚。

焼きたての「つぼ焼きいも」は、ゆらゆらと美味しそうな湯気を漂わせます。菊の花のように真っ黄色になった焼きいもをハフハフと口に運べば、栗のような優しい甘さが口いっぱいに広がります。タネも仕掛けもない手品を見せられたような、驚きの美味しさです。

店主のおばあさんは現在84歳。年齢を感じさせない快活な声でお話をしてくれました。戦後の混乱期から激動の昭和時代、そして世紀を越えて時代が平成に移っても、「つぼ焼きいも」を続けてきました。
毎年やめようと思うのだけど、寒くなり始め「いつから始まるの?」という待望の声を聞くと、結局は「今年で最後」と思いながら続けてきました。「つぼ焼きいも」がなくなるのは寂しいけれど、あまり無理はしないでほしいな。
 

三戸商店
青森県八戸市大字湊町字上中道4-4
8:00〜18:30
 
 
 
<参考>
http://marugoto.exblog.jp/7256599/(2008/02/14)
http://marugoto.exblog.jp/9096182/(2008/12/22)