東八甲田・グダリ沼

ある夏の暑い日に、東八甲田の田代牧場の近くにある「グダリ沼」を訪問しました。国道394号線と青森県道40号線の交差点の近くになります。

グダリ沼周辺は畜産組合の私有地となっていますが、管理人に一声かければ自由に立ち入りできます。付近の駐車場は有料です。草をかき分け牧草地を歩くと、小高い丘の先にグダリ沼は現れます。

グダリ沼は、青森市を流れる駒込川の源流湧水地。

八甲田山系の火山岩によって濾過(ろか)された水が沸々と湧き出でて、川となってゆるやかに流れていきます。

山椒魚」などで知られる文豪・井伏鱒二もこのグダリ沼を訪れ、紀行文「グダリ沼」(「『川釣り』1951(昭和26)年、岩波書店刊 所収)を残しています。

グダリ沼は火口湖ではない。地の底から水が大量に湧き出して細長い沼をつくりあげ、あふれ出した水が小川になって浅瀬の川に流れこんでいる。番頭の一人が、釣りの支度をしながら、この沼での釣りかたを教えてくれた。餌は灰色の小さなバッタである。それを水面に軽く落し、水に浮かしたまま自然に流れているように流して行く。餌を沈めると、もし釣れたにしても魚が藻のなかに潜りこんで駄目だそうである。水藻が一面に密生して、水底をいっさい見せてない。
岸から一株の木が沼に倒れこんでいた。その幹丸太の上を歩いて行った番頭が、
「やあ、イワナの品評会だ。大きなのや小さいのが、うようよ集まっている。ここがいい。水旅館だ。」
と、水のなかをのぞきながら云った。


目を見張るほどに美しい水がサラサラと優しく流れていきます。美しく広がる水面の上を歩けたら…なんてバカバカしいことを考えているうちに、日々のストレスもいつの間にか流れていってしまいます。

清流にしか育たないバイカモ(梅花藻)が、流れにまかせて棚引いています。季節が合えば、可憐に咲くバイカモの花を見ることができるそうです。

グダリ沼の清流を眺めていて、連想したのはジョン・エヴァレット・ミレイ『オフィーリア』。たくさんの花に囲まれて清流を静かに流れるオフィーリア(シェークスピアの戯曲「ハムレット」の登場人物)。この作品は夏目漱石の「草枕」にも登場します。

青空に湧き立つ白雲が水面に映るのを眺めながら、過ぎ行く夏の日に思いを馳せます。

グダリ沼のせせらぎを見ていると、自分だけの秘密の場所に遊びに来たような気になります。いつまでもこの美しい自然が保全されますように。
 

グダリ沼
青森県青森市箒場平
田代牧野畜産農業協同組合 017-738-0066
青森市経済部観光課 017-761-4466
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