階層相続

アメリカ南部を襲ったハリケーンカトリーナは甚大な被害をもたらしただけではなく、いまだ解消されない黒人差別の問題と貧困層の存在を浮き彫りにしてしまった。ニューエコノミーとまで呼ばれた経済成長を実現し、世界秩序の維持者として絶大な覇権を握っているアメリカが内部に抱える矛盾を国内外にさらけ出してしまったことは衝撃的である。あらゆる学問分野で先端を行くアメリカは危機管理の先駆者でもあったはずで、被害状況すら把握できず右往左往する姿は見ていて痛ましいものがある。

さて、今回取り上げたいのは「階層相続」という問題である。これは、親が属する社会経済的ステータスから子が移動できるのか否かというものである。今回のハリケーンでは、貧困層に生まれた子は貧困層から脱することができない現実が明らかになった。この意味で階層が相続されているのである。

この階層相続という現象が日本でも少しずつ忍び寄っているのではないかと危惧(きぐ)する社会学者が増え始めている。代表的な文献の一つとして次の文献がある。

不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)

不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)

この文献は、階層相続を一般に紹介した先駆的な文献として一定の評価が与えられている一方で、データの不備など様々な問題点も指摘されている。いろいろな意味において注目すべき文献であろう。
階層相続はすでに様々な職業に見られる現象となっている。医者、弁護士などの高額所得が実現可能な専門職をはじめ、外交官、国家公務員キャリア組など多岐にわたる。階層相続が社会的に見て良いか悪いかを論ずることは簡単ではないが、出自をもって職業が事実上制限されてしまうことは「法の下の平等」に反するであろう。
昨今若年層の就職難を受けて、職業意識を育成するプログラムがさかんに行われている。NHKが放送しているあしたをつかめ・平成若者仕事図鑑もその一つであるが、この手の番組は職業意識を高めるだけでなく、自分の生まれた境遇に制限されないで様々な職業の存在を認識させる効果がある。この意味で、階層相続を防ぐ役割があるのではないかと考えている。ただし、実際には親の出せる資金に限界があるなど様々な問題があるとは思うが。
従来の教育において、学校の進路指導室はあまりに現状を考えずに、学生の将来を指導していたと思う。偏差値と得意科目だけで機械的に進路を判定するようなことはもうやめてほしいと思う。
最後に職業紹介本のうち、次の本はややひねくれていて、あまり評価できないと思う。(挿絵は大好きですけどね。)
13歳のハローワーク

13歳のハローワーク