国勢調査・拒否続出

国勢調査はすべての国民が対象となる唯一の「全数調査」*1であり、貴重かつ最重要な統計である(指定統計第1号)。この重要な国勢調査の評判がすこぶる悪い。調査員が調査票を焼き捨てる事件まで起きてしまい、国勢調査の方法そのものを見直す時期に来ているようである。
毎日新聞2005年10月8日記事(Yahoo!ニュース)の国勢調査 650億円投入も、拒否続出 時代にそぐわずより

1日に実施された国勢調査の評判が散々だ。「面会できない」と調査員が嘆く一方、住民の間では「何で詳しく調べられるのか」と不満が募る。650億円を投入した5年に1度の国勢調査は時代の変化に合わなくなっている。
(中略)
調査票を回収できない世帯について、自治体側は調査員に対して世帯員数、氏名、男女別の3項目について、近隣の住人などから聞いて報告するよう求めている。だが、勝手に調べられることへの抵抗感は強い。
調査票の記載項目には、世帯主と家族の氏名のほか、就業先の会社・事業所名、仕事の内容、住居の床面積などもある。東京都八王子市で6人暮らしの男性弁護士(41)は「最近は(町中で)アンケートを求められても、余計なことは書かないようにしようという気持ちが強い。なぜ会社名を書かなきゃいけないのか不安を感じる。必要性や合理性があるのだろうか」と首をかしげる
就業先については戦後毎回、床面積も90年の調査から入っている。総務省統計局は職業欄について「職業構造の実態を把握し、雇用政策に生かすため」、床面積も「地域別の住宅政策や地域開発に不可欠」と説明するが、プライバシー保護意識の高まりと調査内容とのギャップは広がるばかりだ。
さらに、調査員を装って調査票をだまし取る事件が全国的に多発しているほか、調査員を名乗って家に入り現金65万円を奪う(大阪府堺市)といった犯罪も起きた。最近は、悪質リフォームなど訪問販売への警戒心も高まり、調査員の訪問調査を難しくしている。 国勢調査で調査票の未回収率は95年0.45%だったのが00年は1.7%に増加。今回はさらに増えることは間違いなさそうだ。
民間団体「国勢調査の見直しを求める会」共同代表の白石孝さんは「統計調査としての国勢調査は非常に重要だ。しかし、すべての項目を全戸調査で行うことは難しい時代になった。特に都市部で、性犯罪を恐れる若い女性など単身世帯の警戒感は高まっている。職業や住宅面積の調査は、国勢調査ではなく、別の抽出調査を代用すればいい」と話している。(太字は引用者)

国勢調査は、昨今の個人情報保護の流れに明らかに逆らっているようだ。就業に関する項目のうち、就業先の名称など全く不要な設問である。どうせ数量データしか公表されないのに、なぜこのような調査を行うのか、説明が不十分である。床面積なんて日頃全く気にも留めない数値を突然尋ねられても困る。*2
引用記事にあるように、職業と住宅面積の調査は別の抽出調査で十分であろう。今後の国勢調査では、個別訪問方式ではなく郵送方式を積極的に取り入れる、調査項目の再検討、個人情報保護の徹底、国勢調査の啓発活動など様々な課題があるように思う。
それにしても今回の国勢調査の結果について、その精度が大きく揺らいでしまったことは残念である。ただし、標本調査よりもはるかに精度の高さは維持されているだろう。

http://d.hatena.ne.jp/aya1227/20051009/1128826518

*1:全数調査は、文字通り調査対象のすべてを調査する。これに対して対象の一部を抽出して調査するものを標本調査(抽出調査)と呼ぶ。

*2:床面積については、適当に答えている人は多いだろうから、調査精度は低いだろう。