芸術の青森展 〜青森県立美術館開館5周年記念展
青森県立美術館は今年2011年で早くも開館5周年。待望の県立美術館開館(2006年7月)からまもなく5年なのかと、時の流れの速さに驚きます。現在、「芸術の青森 〜青森県立美術館開館5周年記念展〜」が開催されています。会期は2011年3月21日まで(地方巡回なし)。
展覧会の名前は、全国各地に点在する「芸術の森」を洒落たものかと思いましたが、1888年パリで刊行されジャポニスムをヨーロッパに風靡させた雑誌「芸術の日本(Le Japon Artistique)」にヒントを得た模様です。
展覧会の看板(2011年1月下旬撮影)。
縄文土器やこぎん・津軽塗などの生活の中から生まれた工芸から、棟方志功ら近・現代の作家に至るまで、青森県が輩出してきた芸術の数々が一堂に会します。青森県をたっぷり堪能したい「青森ファン」には堪らない展覧会です。
展覧会は5つのテーマで構成されます。第1のテーマ「森〜板画と民芸」では棟方志功の「板画」や津軽こぎん刺し、南部菱刺しなどの民芸が展示されます。津軽と南部を代表する「手による芸術」からは、歴史も風土も異なる2つの地域の息づかいを直接に感じることができます。
第2のテーマは「土〜縄文と大地の画家」。
個人的に阿部合成の作品がとても好きで、改めて本物を目の前にして、躍動感あふれる動きや表情に釘付けになりました。「鱈をかつぐ人々」(1938年、神奈川県立近代美術館蔵)に描かれた人々は、まるごと青森さんの記事(2011/01/12)が紹介されていた「ボッコ靴」を履いていることに気付き、とても興味深く拝見しました。
阿部合成と同い年のいとこに当たる常田健が描いたのは、青森の大地に生きる等身大の人間の姿。農民の束の間の休息を描いた「水引人」(1940年、「常田健 土蔵のアトリエ美術館」)は、どこか中世ヨーロッパの農民の姿を彷彿とさせるような素朴な表現が魅力的です。
薄暗い土壁の展示室に浮かび上がるように展示された縄文土器の数々。縄文人と対話するような神秘的な空間になっています。展示される土偶のいくつもの顔が次のテーマ「顔と魂」につながっていきます。
第3のテーマ「顔と魂〜自意識と批判精神」では、「ナンシー関 大ハンコ展」でたっぷり堪能したナンシー関の世界が再び出現しました。描かれた人物の性格や所作まで目に浮かぶような生き生きとした表情。卓越した観察力と批判精神がなければ表現できなかったでしょう。ナンシー関が着実に「歴史」になっていくことに、一抹の寂しさを感じました。
今純三の「信子像」(1926年、青森県立郷土館)に描かれたあどけない子供の顔が何とも可愛らしく、とても印象に残りました。
第4のテーマ「雪空炎〜青森の色と光」では、色彩豊かな津軽凧絵、ねぷた絵とともに、小館善四郎など多彩なる画家の作品が展示されます。
小館善四郎の「雪の日」(1941年)は、絵本に出てきそうな温かみのあるタッチで、青森の雪の日を描いた作品。開戦前夜の困難な時代に、平和へのかすかな希望を託したのではないかと思うほど繊細な世界です。
最後のテーマ「海と生きる〜風土と幻想」では、当展覧会で最も見たかった作品が展示されていました。
1976年に八戸市立湊中学校養護学級の生徒13名が制作した版画「星空をペガサスと牛が飛んでいく」。
シャガールを思わせるようなファンタジックな世界は、宮崎駿監督の「魔女の宅急便」において、主人公キキが知り合う女性ウルスラが描く絵として使われました。キキが「失った自分」を取り戻すきっかけになる、「魔女の宅急便」の核心とも言うべき絵画に、八戸市の生徒の作品が採用されていたことも青森県民の誇りになるかと思います。
当記事では、文章中で言及した美術館のサイトの他、まるごと青森さんの記事(2011/01/25)からも画像を引用しました。