知るや君(きみ)

「知るや君(きみ)」は、現代語(口語)で言えば「君は知ってるかい?」という意味。島崎藤村の詩集「若菜集」に収められた詩の一つです。NHK教育テレビ「シャキーン!」という番組で、イラストと歌と音楽で美しくアレンジされ、詩の美しさに心の底から感動していました。今年の6月頃に放送されたもので、当時使われた映像がようやくyoutubeで見つかったので、紹介させて頂きます。(文語バージョンと口語バージョンがあり、映像は文語バージョン。)

シャキーン!の番組紹介にある「知るや君」に詩が掲載されています。
【知るや君】文語ver.
作詞:島崎藤村 作曲:サキタハヂメ うた:熊本野映
現代語訳:小山哲朗 監修:鈴木昭一(藤村記念館長)
アニメーション:坂井 治
イラストレーション:朝倉真愛
 
るやきみ
 
こゝろもあらぬ秋鳥あきどり
こえにもれくるひとふしを
        るやきみ
 
ふかくもめる朝潮あさじほ
そこにかくるゝ真珠しらたま
        るやきみ
 
あやめもしらぬやみの
しづかにうごくほしくづを
        るやきみ
 
まだきもぬをとめごの
むねにひそめること
        るやきみ
 
【知るや君】口語ver.
 
ないてるだけの とりたちの
こえにかくれた そのきもちを
しってるかい
 
ふかくてすんだ うみのそこ
ひそむしんじゅの きらめきを
しってるかい
 
なにもみえない よぞらにも
ほしがしずかに うごいてる
しってるかい
 
こいをしらない おとめにも
むねにひめてる こいごころ
しってるかい
 

島崎藤村といえば「まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき」で始まる「初恋」という詩が有名ですが、「初恋」も「知るや君」と同じく詩集「若菜集」(明治30年(1897年)発行)に収められています。とてもロマンチックな詩が多く掲載され、近代詩の新地平に当時の人々は驚いたことでしょう。藤村の詩歌が青春文学に呼ぶにふさわしいことを改めて知らされます。

陸、海、空の美しさを歌った後で、淡い乙女心を琴になぞらえて表現してしまう藤村のロマンティシズム。恋を知らない無垢な気持ちを「弾きも見ぬ」「琴の音」と表現するところに、藤村の美学が光ります。
昨今においては、古典を出題しない大学が増えて、古典をきちんと学ぶ学生は激減してしまいました。日本語本来が持つ言葉の美しさや響きを決して忘れてはいけません。古典教育の復興を切に願います。
インターネットが普及し、文字だけのコミュニケーションはますます重要になっています。にもかかわらず、言葉の行き違いから生まれるトラブルは後を絶たず、言葉の持つ意味や力が十分理解されていないのは残念なことです。
島崎藤村の詩集「若菜集」は、岩波文庫の「藤村詩抄」に収められています。

藤村詩抄 (岩波文庫)

藤村詩抄 (岩波文庫)