求人不足の失業
本日2006年4月1日付けの日本経済新聞5面「求人不足の失業 ほぼ解消」(関連記事)という記事が異常に分かりづらく、不満の残る文章であった。第1行目に「雇用市場」という言葉があるが、あまり一般的ではないと思う。「労働市場」ではダメですか。
特にひどかったのが、「需要不足失業率と構造的・摩擦的失業率」を説明する記事。全く説明になっておらず、悲惨の一言。*1 以下引用。
景気悪化などで企業の求人需要の低下を原因とする失業率を「需要不足失業率」、年齢、地域、職種など求人企業と求職者の条件が合わない「ミスマッチ」が理由の失業率を「構造的・摩擦的失業率」と呼ぶ。失業率はこの二つに分解できる。
ここまでは良い。しいて言えば、「完全失業率はこの二つに分解できる。」 次の文章が極めて問題。
構造的・摩擦的失業率を推計するには、労働力供給側からみて計算する普通の失業率と、労働力需要側からみた欠員率を比べる。欠員率は有効求人数から就職件数を引いた「欠員数」を、欠員数と雇用者数を足した数字で割って計算するのが一般的。普通の失業率と欠員率がイコールになれば、需要は不足でも過剰でもない状態といえる。需要不足失業率は普通の失業率から構造的・摩擦的失業率を差し引いた値となる。
この文章は本当に理解させる気があるのか理解に苦しむ。何回読んでも意味が見えてこない。逐一ツッコミを入れてみましょう。
1. 構造的・摩擦的失業率を推計するには、労働力供給側からみて計算する普通の失業率完全失業率と、労働力需要側からみた欠員率を比べる用いる。
→ 「普通の失業率」って何? 記事中の「完全失業率」という用語を使うべき。労働力供給・需要は、労働供給・需要で意味が通じる。失業率と欠員率を「比べる」というのは暴論も甚だしい。
2. 欠員率は有効求人数から就職件数を引いた「欠員数」を、欠員数と雇用者数を足した数字で割って計算するのが一般的。
→ これ以外の欠員率の出し方は聞いたことがない。一般的などと言う必要なし。
3. 普通の失業率と欠員率がイコールになれば、需要は不足でも過剰でもない状態といえる。
→ 究極に意味不明。こんな文章を大学時代の指導教官に見せたら、コッテリ絞られただろうなぁ。専門的に言うと、UV曲線分析で失業率*2と欠員率が一致する45度線上の点。仮に失業率と欠員率がイコールとすれば、需要は不足でも過剰でもない状態と考えられる。失業と欠員が同数である時、基本的には失業の解消は時間が経てば解決するはずである。しかし、失業が解消しないならば、何らかの不適合(ミスマッチ)があると解釈する。
最後に、不満箇所を私なりに書き直してみると次のとおり。
構造的・摩擦的失業率を推計するには、失業率と欠員率の関係をまず推計する。欠員率は有効求人数から就職件数を引いた「欠員数」を、欠員数と雇用者数の和で割って求める。次に、この関係が安定的として、もし失業率と欠員率が一致するとしたら失業率はどの値になるか推計する。これを構造的・摩擦的失業率と呼び、需要が不足でも過剰でもない状態の失業率とされる。需要不足失業率は完全失業率から構造的・摩擦的失業率を差し引いた値である。*3
私も一応経済のプロなので、どうしても日本経済新聞の記事にはうるさくなってしまう。土曜日で暇だったので、試しに細かくツッコんでみました。